卵巣腫瘍

卵巣が腫れて大きくなった状態が卵巣腫瘍ですが、卵巣は定期的に排卵するので特に異常がなくても腫れることがあります。そのようなものを機能性嚢胞(卵胞嚢胞とも)と言います。しかし腫れた卵巣の中が均一な水分のようなものではないときや、小さな部屋がたくさんあるような場合、中身が液体でなく硬そうなもの(充実性と言う)でできているときは悪性の可能性が否定できません、腫瘍マーカーの検査を行い、MRIによる造影の検査を行う必要があります。少しでも悪性が疑われるときは手術をしなければなりません。悪性の可能性がないと考えられる場合はそのまま定期的に診察を続けていきます。悪性の可能性がなくてもあまり大きくなるものは手術の対象になります。卵巣は何かあると必ず腫れます。腫れた卵巣はちゃんと見ていく必要があるということです。卵巣が腫れても全く自覚症状はないので、腫れているかどうかはほかの検診や診察で偶然見つけられることが多いです。

卵巣腫瘍の種類卵巣腫瘍の絵

卵巣腫瘍にはたくさんの種類があります、大きく分けて良性と悪性ですが、その中間の境界悪性群というものもあります。それぞれに中身を構成する内容の違いで漿液性や粘液性、充実性などがあり、また中に油や髪の毛などが入っている奇形腫や腫瘍ではありませんが中に血液の入っているチョコレート嚢胞(血液がドロドロになってチョコレート状になっている)などというものもあります。

卵巣腫瘍の治療

卵巣腫瘍は薬で治すことできません、治すとすれば手術になります。あまり大きくなくて良性と考えられる卵巣腫瘍は当然手術しないで経過を見るわけですが、たまにねじれる(茎捻転と言う)ことがあります。ねじれると卵巣に血液が流れなくなって壊死(細胞や組織が死ぬこと)を起こしてしまいます、当然非常に痛いです。ねじれる前に手術をしてしまえば良いということにもなります。ねじれてからの手術は卵巣ごと取る手術になるのに対して前もって行う手術は卵巣の腫瘍の部分だけを取り卵巣は残すことができるので、純粋に卵巣のことを考えると前もって手術したほうが良いようにも思えます。このあたりの判断はそれぞれの腫瘍の大きさや性状によっても変わってきますので、医師と十分に相談する必要があります。特にねじれやすいのは中身が油や髪の毛(腫瘍の中に髪の毛や歯などが入っている)などの奇形腫という腫瘍です。卵くらいの大きさがあればねじれる可能性があります。MRIなどで悪性が疑われれば当然手術することになります。

良性卵巣腫瘍の手術について

卵巣腫瘍の手術、特に良性と考えられる卵巣腫瘍の手術をするかどうかは常に頭を痛める問題です。良性卵巣腫瘍の手術の方法には2種類あります。
1;卵巣摘出術
2;腫瘍核出術
卵巣摘出は卵巣ごと腫瘍を取る手術ですが、核出術というのはどういう手術かを説明します。卵巣の腫瘍は卵巣の中から発生した腫瘍です、例えて言えばミカンのようになっていてこの場合ミカンの皮が卵巣でミカンの中身が腫瘍という感じです。ミカンを手でむくと中身が出てきますがこの中身をきれいにとって皮を縫い合わせるのが核出術です(医者用語では核出術を「皮むき」とも言います)。ミカンをむくときもうまくやらないとミカンの汁が出てしまいます、同じ様なことが核出術でも起こります。 残った皮を縫い合わせると餃子のようになりますが、そのうちふつうの卵巣になります。良性とわかっていれば核出術が当然ですが、良性とわかっていればする必要はないともいえます。もし多少なりとも悪性が疑われるのであれば核出で良いのかどうかが重要なポイントになります。これを言い出すと堂々巡りの議論になり結果は出ません。明らかに良性で大きすぎてジャマだとか、破裂や捻転の危険性があるというのであれば核出で決まりでしょう(大きすぎると核出できないことがあります、皮の部分が延びきっていて元に戻せません)。さらに手術には開腹手術と腹腔鏡手術があります。腹腔鏡手術はどこの病院でもできるというわけではありません。

開腹手術と腹腔鏡手術

ところで開腹手術と腹腔鏡手術はどちらが良いのでしょうか?普通に考えて、もし同じ手術を開腹でも腹腔鏡でもできるのであれば腹腔鏡のほうが傷も小さいし退院も早いし、痛みも少ないしいいことづくめです。問題は同じ手術ができるのかということになると思います。僕が腹腔鏡手術のスタッフとして仕事していたころ(ほぼ20年前)と今はずいぶんと違っているようなので、適切な意見とはいえないですが、おそらく今でも腹腔鏡の視野は開腹手術より狭いと思います、腹腔鏡の問題はそこに尽きるのではないかと僕は思っています。常に全体を俯瞰(ふかん)しながら手術を進めていくことがやや難しい手術なのです(もちろんスコープをひけば視野は広くなるし、近づければ狭くなるので熟練した医師はそれをスムースに切り替えて手術しているわけですが)。腹腔鏡は開腹より細部が良く見えるのです、見えすぎて全体を見誤る危険はあるのかなとは思います。ですから開腹手術しかやらない病院は技術力が低いと言うわけではなく、やはりそれぞれの医師の考え方が反映していると思います。ただし最近は腹腔鏡手術の症例数が昔とは比べ物にならないほど多くなっています。将来的にはおそらくほとんどの手術は腹腔鏡的になるのではないかとは思っていますがどうでしょうか。当院では開腹手術も腹腔鏡手術もしてませんので手術の必要な患者さんには適切な病院を紹介しています。

 

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