治療法1(タイミング法と人工授精)

タイミング法

これは排卵のタイミングを正確につかんで性交してもらう方法です(今までの総括のような治療ですね、おさらいしましょう)。卵胞の成長を超音波で見ていきます。さらに頚管粘液の量と熟化度を見ます。加えて尿中LH(排卵前検査)を見ます。この三つ、つまり卵胞径、頚管粘液、尿中LHを見て、さらに基礎体温の変化をみることによりかなり正確に排卵日を推定することができます。排卵日に性交してもらって翌日にヒューナーテストをします。その約1週間後に着床期の子宮内膜の厚さ(10mm以上あるが望ましい)や黄体ホルモンの値の測定(10ng/ml以上あるのが望ましい)を行います。最近はあんまりやりませんが、この時期に子宮内膜日付診という検査をすることがあります。これは着床の頃に特徴的な内膜に変化しているかどうかを実際に採取して顕微鏡で見るのですが、かなり痛いので特別な場合にしかしません。以上のような検査を治療をかねて行っていきます。不妊治療の最も基本という部分です。

排卵誘発法

排卵誘発は不妊治療でもっとも良く行われる治療です、タイミング法と合わせて行われることが多いです。排卵してなければ当然誘発しなければ妊娠しません。しかし排卵している場合でも誘発することがあります(結構多いです)。排卵しているのに誘発するんですか?とよく聞かれますが、誘発する理由は単に排卵させるというだけでなく、頸管粘液が少ない人や内膜の薄い人にセキソビッドを飲んでもらったりするのも、誘発療法になります。これは卵を作ることが目的ではなく、子宮環境を整えるのが目的です。黄体期のホルモンが低めの人にもセキソビッドなどの軽い誘発剤を使います。これで改善されることも多いのです。

しかし頸管粘液も出ていて、内膜も普通で、黄体ホルモンもちゃんとしている場合にも誘発することがあります。それは、それまでの経過で妊娠されてないということが理由です。一種のステップアップ治療になります。複数の卵を作ることによって、妊娠の機会を増やすというのが目的です。卵胞数を増やせば妊娠率が上がるのは間違いないです、ただし増やし過ぎると多胎妊娠などが出てくるので、それをうまく加減しながら誘発しなければいけません。排卵誘発効果が高いのは何といってもクロミッドです。セキソビッドでは卵胞は1個しかできません。したがって次はクロミッドの出番になるのですが、増やし過ぎないように最初は半錠程度から開始するようにしています。

ただしクロミッドには問題点があります、頸管粘液が出にくくなって内膜もやや薄くなる傾向があります。特に頸管粘液が出なくなるのはタイミング療法には命とりです。必ずしも出なくなるわけではないですが、出なくなる場合は人工授精が視野に入ります。

それでも妊娠しない場合は注射を併用します。普通はhMGという誘発剤を使います、これは強力です。ですから卵胞ができすぎて多胎妊娠になったり、卵巣が腫れて卵巣過剰刺激症候群(OHSS)になったりしないように加減しながら打っていく必要があります。ただし多のう胞性卵巣(症候群)の体質の人に簡単にhMGを打つとほぼ間違いなく卵胞ができ過ぎてOHSSを起こします。したがって多のう胞性の場合は注射を併用する場合はrFSHという、少しマイルドな誘発剤の注射を使いますが、なかなか難しいです。弱いとできないし、強いとできすぎるので、加減が難しいのです。

人工授精(AIH; artificia insemination by husband もしくはIUI; intra uterine insemination

人工授精の絵人工授精は精液を処理して動きの良い精子だけにしたものを子宮内に注入する方法です。精子の数が少なかったり(男性因子)、頚管粘液不良のため精子が子宮内に入って行けない(頚管因子)のが不妊の原因と考えられる場合に行います。ただしいろいろ検査しても特にどこも悪くないという原因不明不妊の場合にも行います。最近多くなってきたのはご主人がEDもしくは、挿入はできるが射精ができないという場合です。年配の方だけでなく、比較的若い人にも結構いらっしゃいます。当院ではEDの治療はしません、EDの治療自体は泌尿器科にてお願いします。当院ではとにかく妊娠するために精液を出してもらうだけです。ただそうすることで妊娠に対するプレッシャーがなくなるので、もしかするとEDについても多少は良い影響があるかもしれません。EDだったら、単に精液を腟の中に入れてやればいいのではないかとも思いますが、ずいぶんやりましたが、どうもそれでは妊娠しません。おそらく性交することで精子が子宮内に入りやすくなっているのではないかと思いますが、よくわかりません。

当院の人工授精人工授精の方法

朝のうちにご主人に精液を専用の容器に取ってもらい、それを持ってきてもらいます。あんまり朝早く採ると処理を始めるまでに時間がたちすぎて、精子の運動率が悪くなってしまうのでだいたい2時間以内にもってきてもらうようにしています。冬場は冷えるので、カバンに入れてくるのではなくコートの内側などの暖かいところで、人肌程度で暖めて持ってきてもらうほうが良いです。当院にて採ってもらってもかまいませんが、トイレです(専用の部屋はありません)。

処理に1時間ほどかかります、子宮内に精子を注入する時は細長くて柔らかい人工授精用の針(というか細い管のようなものを小さな注射器につけてあります)を使用します。このとき多少痛みがあることもあります、我慢できないほどではないと思います。また少し出血することもありますが、長くは続きませんので心配はいりません。ただし針が入りやすい人とそうでない人がいます、入りにくいからと言ってそれが不妊の原因というわけではありません。しかし入りにくいと、ちょっと痛いことがあるかもしれません。処理後の運動精子が1000万匹/ml以上くらいいてほしいですね。当院の精液処理は濃度勾配法です。

 

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