子宮筋腫

患者さんに筋腫がありますというと、えーーー!!と言われます。でも婦人科医はふつうの筋腫は正直どうでもいいと思っています。ですから、このようなリアクションがあると、認識の隔たりにあらためて気づかされます。「筋腫は誰にでもありますよ、心配ありません」と言ってもなかなか納得してもらえないですね。特に筋腫が2個ありますねと言って、次に来られた時に筋腫は3個ですねなどと言ったりしたらもはや2度と来られません。婦人科医は2個だろうが3個だろうがどっちでもいいくらいにしか思ってません。というか実際どうでもよいのですが、患者さんにとっては非常に重要な問題のようです。確かに10個も20個もあれば問題ですが、問題は筋腫が子宮のどこにあるのかの1点に尽きます。それをこれから説明しましょう。とにかく子宮筋腫は3人に一人は持っているといわれるほどありふれた腫瘍です。

子宮筋腫の種類子宮筋腫の絵

子宮筋腫があると生理の量が増えたり生理痛がひどくなったりまた不妊の原因にもなりますが問題は筋腫が子宮のどこにできているかなのです。子宮筋腫には3つの種類があります。子宮の外側にできるもの(漿膜下筋腫)と、子宮の筋肉の中にできるもの(筋層内筋腫)と子宮の内側にできるもの(粘膜下筋腫)です。どれも筋腫そのものは同じで良性の腫瘍です。しかし内側にあればあるほどいろいろな症状が出ます。特に最も内側にできる粘膜下筋腫は小さくても出血や生理痛などの症状がかなり強くなります。また内側にあるほど不妊症になりやすくなります。外側に出ている筋腫はサボテンのように外側に発育するので自覚症状はまずありません、よほど大きくなると自分でおなかの上から触れるようになって、寝るとおなかに固いものを触れると言って来られる方もいます。それくらい症状がありません。筋層内筋腫も子宮内膜から1㎝程度離れていればまず症状はありません、しかし内膜に近くなってくると過多月経や生理痛などの症状が出てきます、不妊にもなりやすくなります。

筋腫自体は良性なのでどっかへ転移したりはしませんから症状のない筋腫はほっといてもかまいません。症状がひどくなって、例えば生理の量が多くなって常に貧血になったり、毎月生理痛がひどくて生活や仕事に支障が出るようになればやはり手術が必要になります。ただし、急に大きくなったり巨大な筋腫は手術の対象になります。

筋腫があるとなぜ生理痛や過多月経になるのか

生理痛のところでも説明しましたが、生理中は血液を子宮から押し出すために子宮は収縮します、そしてその収縮は子宮の血管を圧迫して出血を止める働きもします。これらの機能が筋腫があると阻害されて出血が止まらなくなり、さらに強い収縮を必要とするようになり、結果として生理痛と過多月経になると考えられます。したがって筋腫が内側にあればあるほどその症状は強くなるのです。粘膜下筋腫は1㎝でも手術の適応になりますが、外側の筋腫は10㎝になっても必ずしも手術が必要にはなりません。

子宮筋腫の治療

特に症状がなければ筋腫自体は悪性化することはほとんどありませんので(ないことはないが)大きさを定期的に見ていけばよいです。大きくなるのが速かったり、異常に大きくなるような筋腫は肉腫(簡単に言えば癌のことです)のことがあるので、やはり手術したほうがよいでしょう。大きさは超音波の検査で大体わかりますが、MRI検査を行うとよりはっきりわかります(特に内膜との関係がよくわかるので、できるだけMRIは撮影した方がよいです)。特に閉経しても大きくなるような筋腫はまず肉腫を考えます。

症状がある場合、たとえば貧血になるくらいに生理の量が多いとか、生理痛がひどくて仕事ができない、もしくは不妊の原因と考えられる場合などは手術をする必要があります。筋腫だけを取る筋腫核出術と子宮ごととってしまう子宮全的術があります。今後妊娠を希望するかどうかで手術の方法が異なります。筋腫核出術で筋腫だけ取る場合は数年間するとまた筋腫ができてくることがありますので、もし今後妊娠を希望しないのであれば子宮ごと取るほうがまた筋腫で困るという事はなくなります。開腹による手術が一般的ですが、最近は腹腔鏡を使った手術もあるようです。どこの病院でもできる手術ではありませんが、確かに傷は小さいので術後の回復は早いです。筋腫だけをとる手術は開腹でないとできないと言われていましたが、最近はそれも腹腔鏡でできる施設もあるようですね、びっくりします。僕自身は腹腔鏡手術からは遠ざかっていますので最近の技術の進歩には驚くだけです。当院では手術は行っていませんので適切な病院を紹介しています。

薬物療法

対症療法も薬物療法です、例えば生理痛には痛み止めなど。しかし一般的に筋腫の薬物療法は生理を止める治療のことです。GnRHaという薬があります、これは脳の下垂体というところに作用して生理を止めてしまいます。閉経したようになるので偽閉経療法と言います。スプレキュアやリュープリンなどが有名です。ただし更年期のような症状が出てきてさらには骨塩量が低下して骨粗しょう症になりやすくなるので半年以上は続けないことになっています。よくやるのはあと半年ホルモン剤で生理をコントロールしてまた半年生理を止めるを繰り返して閉経するのを待つ治療を逃げ込み療法と言います。繰り返すとしても数年間が限度のようなので、45歳以上の患者さんが対象になります。

似たような薬でディナゲストやミレーナ(飲み薬ではなく子宮内に入れる避妊具に薬が含まれている)というのもあります。ただしこれは保険適応の問題で子宮筋腫には使えません。子宮腺筋症なら使えます、したがって腺筋症を合併していれば使えることになります。ただどちらも高価ですし、しかも使用中は不正出血が多いですね。

これらの薬で生理を止めれば生理痛や出血はなくなりますが、筋腫自体はほとんど小さくはなりません(小さくなるという報告もあるようですが、僕の経験ではあまり小さくならなかったです)。したがって筋腫大きいからこれらの治療をするというのではなく、生理の量が多くて貧血になったり、生理痛がひどくて日常生活に支障があるというようなときに、それらの症状を緩和するために使います。

 

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