子宮頚癌(検診)

子宮頚癌

文字通り子宮の頚部にできる癌です。僕が婦人科に入局したころ(30年ほど前)は患者さんの話を聞くとき(問診と言います)は必ず初交年齢を聞くようにと言われていました。つまり最初に性交(セックス)したのは何歳ですか?という質問をしなさいということです。それは子宮頚癌が初交年齢が若いほどなりやすいということが知られていたからです、また性交の相手が多いほうが子宮頚癌になりやすいとも言われていて、子宮頚癌はおそらく性交と関係するというのはずっと言われてきました。今では考えられないような(失礼な)質問ですが、当時は学術的に必要な質問と考えれていました(子宮頚癌の原因を研究する上で)。それが最近になってHPVというウイルスで発症することが確認されたのです。

子宮頚癌は子宮の頚部にできるわけですが、この子宮頚部というところは非常にリンパが発達しているようでリンパ管を通って早期に転移してしまいます。また子宮の周囲に発育していくのですぐ近くにある尿管(腎臓から膀胱に行く管)を巻き込むことがあり、そうなると水腎症になります。水腎になると尿が出ないので水分は体にたまって特に肺水腫を起こしてあたかもおぼれたようになって呼吸困難になってしまうこともあります。もちろんそこまで行く前に不正出血でわかることが多いですが、昔はそういう呼吸困難で見つかる症例もあったようです。そこまで行くのは年配の方が多いので、なかなかちょっと出血しているくらいでは婦人科には行きたくないというのがあるのでしょうね。でも不正出血をほったらかしてはいけません。必ず婦人科を受診して下さい。

つまり子宮頚癌はとにかく早期に見つける必要があるのです。というわけで次の子宮頚癌検診がとても重要ということになります。もちろんほかの癌も当然早く見つける必要はありますが子宮頚癌は早く見つけることのできる癌なのです(ここポイント)。

子宮頚癌検診子宮芸癌検診

子宮頚癌検診は子宮の入り口の部分の細胞をブラシでさっとこすりとって行いますので、ほとんど痛みはありませんがちょっと出血することはあります。こういう検査を細胞診と言います。癌を診断するときにはこの細胞診とほかに組織診というものがあります。一般に簡単にできるのが細胞診です。ただ細胞診の場合はばらけた細胞を見るので正確な診断はできませんし、場所も特定できません。そのためにより精密に検査をするために組織診というものが必要になります。組織診については後程説明します。

癌検診というといろいろとあります、胃癌や大腸癌検診、乳癌検診、肺癌検診などがありますが、中でも子宮頚癌検診は簡便で精度が高い検診と考えられています。それは癌になる部分が露出しているからです(腟の中に)。胃癌や大腸癌も胃や腸の中に露出していますが、腟の中ほどには簡単には検査ができません、乳癌もかなり皮膚の近くにあるので触ればわかることもありますが、やはり露出してないので正確な診断は意外と難しいことがあります。頻度的にも子宮頚癌は女性の癌の上位にあります、検診は簡単で精度も高いので是非受けるようにして下さい。もちろん精度が高いと言っても100%ではありません、毎年検診を受けていても進行癌で見つかることは皆無ではありません、しかしそれはかなりまれなケースで、多くの場合子宮頚癌は検診を受けていれば早期に発見することができます。受けないと損といえるほど簡単で精度の高い検診です。

 子宮頚癌の出血は性交後の出血で初めて気づかれることもあります。またおりものが多いときなど子宮の入り口(頚部)にびらんがあることがありますが、このびらんが子宮頚癌の初期症状と言うこともあります。おりものが多いときにも婦人科で診察を受けた方がよいです。もちろんおりものが多いときはほかの感染症のことが多いのですが、やはり子宮頚癌検診も行った方がよいです。

 また子宮頚癌は冒頭に書いたHPVというウイルスの感染により生じると言うことが分かっています。このウイルスは簡単に言えばイボウイルスです。普通のイボや外陰部にできるコンジローマを作るウイルスと同じ名前ですが、頚癌を起こすタイプとコンジローマを作るタイプとは違っていますのでコンジローマになったからといって頚癌になるというわけではありません。HPVというウイルスは性行によって感染します。HPVには良性型と悪性型があります。良性型の場合はあまり問題になりませんが、悪性型の場合は将来子宮頚癌になる可能性が高くなります。HPV自体は1回でも性交があれば感染すると言われていますが、問題はこの悪性型のHPVに感染しているかどうかです。

子宮頚癌検診の分類

最近の子宮頚癌検診の結果は6種類に分けられています、以前はクラス分類と言って数字で分けられていました。クラス1とかクラス2、クラス3a などですが、最近の分類はベセスダ分類と言ってアルファベットの頭文字で分けられています。ですから知らなければ何のことやらわかりません。クラス分類は直感的にわかりやすかったですが、いろいろと問題があったようです、おそらくクラス3aとクラス3bの分け方があいまいだったということではないかと思っていますが、結局は世界標準でないと戦えないということかなとも思います(クラス分類は日本独自の分類でした)。こういうのは病理学という学問の深い知識がないと、ちゃんと説明することはできません、これは結構哲学的で難しく、実は僕は苦手です、それでも患者さんには説明しなくてはならないので、間違いのない範囲で説明しています。

まず基本は次の4つの分類になります

NILM;異常なし

LSIL;異形のある細胞を認める 軽度から中等度異形成程度 LはLow

HSIL;異形のある細胞を認める 高度異形成の可能性あり HはHigh

SCC;癌を認める

これらに加えてややあいまいな感じのする以下の分類があります

ASC-US;意義不明の細胞を認める LSIL以上もありうる

ASC-H;異形のある細胞を認める HSILもありうる

という意味です。ここでASC-US は炎症(腟炎や頸管炎)の影響などでよくわからないが、LSILもしくはそれ以上の病変がある可能性があるというような意味ですが、異常がある可能性はそれほど高くはないようです(僕の感じでは)。この場合のみHPVの悪性スクリーニング検査が保険適用で受けることができます。それ以外では認められていません、それはLSIL 以上ではHPVの悪性型に感染しているのは間違いないからということのようです。ただNILMならHPVの悪性型に感染してないかというとそうではありません。ですからNILMでも1-2年に1回は子宮頚癌検診を受けなければ安心はできません。

だったらHPVの検査をすればいいじゃないかと思われるでしょう。確かにそうです、外国(主に西洋)ではその方向で進んでいるようです(例えば悪性型HPVに感染してなければ数年間は子宮頚癌検診をしなくてよいなど)が、なんせ検査料金が高いのでそう簡単に誰でも受けるということはできないでしょう。高いと言っても1万円程度(自費で)とは思います、一度受けて異常なければパートナーが変わらない限り受けなくてもよいかもしれませんが、その方の品行に問題がないという条件が必要です。これは意外と確認が難しいかもしれませんが、よくわかりません。ただ70歳くらいになって性交がほとんどなくなって悪性型HPVに感染してなければその後は子宮頚癌検診は受けなくてもよいかもしれませんが、これもよくわかりません、やはり受けたほうが良いでしょうね。

子宮頚癌ワクチン

世界的には頚癌ワクチンはかなり普及しています。日本ではその副作用のために現在ほとんどワクチンを打つ人はいなくなってしまいました。確かにテレビの映像は衝撃的なので躊躇されるのは仕方のないことかなとは思います。それでも打ったがいいですよとはなかなか言えない状況ですね。副作用のない新しいワクチンが開発されることを願っていますが、でもやっぱり受けたほうが良いとは思います、子宮頚癌になる人は毎年1万人程度いて、3000人くらいの人が亡くなっています。しかもそのほとんどは結構若い人です。これもつらいですね。天秤にかけるとやはり打ったほうがいいかなとは思います。正解はないので自分で決めるしかありませんが、子供に打つとなると親の気持ちはやはり難しいですね。でも今の10代の性病の有病率は驚くべきです、つまりHPV感染はかなり若い時期に起こっています。子宮頚癌検診をすると若い人の異形細胞がバンバン出てきます、10年後には癌になる可能性が十分あります。ワクチンも打たないとなるとこれからどうなるのでしょうか?心配です。

コルポスコープ検査とねらい組織診IMG_3081

LSIL以上では精密検査をすることになっています。精密検査はコルポスコープ検査と言って拡大鏡で子宮頚部を見て異常のある部分を特定して、そこを狙って組織を取るねらい組織診という検査をします。

コルポという言葉は腟を意味する言葉のようです(あいまいですみません)。しかしコルポスコープで見るのは腟ではなく腟の奥の子宮腟部というところです。そこを拡大鏡で見ます。ただ見ても実はよくわかりませんが、これを3%の酢酸(お酢ですね)で処理すると、しばらく白っぽい部分が浮き出てきます、その部分が異形細胞のある部分になります。なぜ白っぽく浮き出るのかは知りません(すみません)。さらにその白っぽい部分にいろいろな変化が伴うことがあり(毛細血管が点々と見えたり、蛇行したりいろいろあります)、そこは異形性が強いことが多いのです。その部分を狙って器具(写真)でかじり取ります、これをねらい組織診(パンチバイオプシー)と言います。当然出血しますが、多くの場合しばらくガーゼで圧迫していると止まりますが、なかなか止まらないこともあります、どうしても止まらなかければ針で縫合することもありますがまれです。ただこの部分にはなぜか神経がないので検査は痛くはないです。

頚部の組織診で異常がある場合
ねらい組織診の結果には
1;軽度異形成
2;中等度異形成
3;高度異形成
という3段階の異形成があり、このうち軽度はそのまま放置して、それ以上にないならないかどうかを子宮頚癌検診で定期的に見ていけばよいですが、高度異形成は何らかの治療が必要になります、そのままにしてしまうと高率に子宮頚癌になると考えられています。中等度はどうするのかというと医師の裁量のようです、治療することもあれば定期的に見ていくということもあります。

当然異形成を超えて癌があれば治療になります。治療もレーザー手術から円錐切除、高位切除、子宮全摘、広範子宮全摘術など各段階に応じていくつかあります。これはかなり専門的な話になりケースバイケースなので、これ以降の治療に関しては医師の説明をしっかり聞いて下さい。当院では子宮頚癌手術は行っておりません、レーザーも円錐切除もできませんのでよその病院を紹介しています。

 

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