不妊症について(診療の流れと検査)

当院の不妊治療について説明します

当院では不妊治療としてタイミング療法や人工授精、体外受精を行っていますが、まず基本的な情報を集めることから始まります。そして最も適する治療を考えていきます。ただし当院では顕微授精を行っていませんので、精子が極端に少なかったり、体外受精しても受精しないような場合は適切な病院もしくはクリニックを紹介しています。

患者さんの状態を把握することから始まります

まずは自然周期で1-2周期経過を見ますが、基礎体温表をつけてもらうことが重要です、基礎体温表がないといつ頃排卵するかがわかりません。来院はどの時点で来られてもそれなりに検査がありますので、思い立った時に来院されればよいと思います。

生理中に来られればホルモン検査ができます。ホルモン検査は別項で説明します。生理じゃないときに来院されればエコーで子宮や卵巣の状態を見ます。もし子宮頚癌検診をされてなけれその時にします。

それから排卵のころに来てもらって卵胞ができているかとか、前日に性交があれば頸管粘液中に精子がいて動いているかどうかの検査(ヒューナーテスト)をします。

さらに排卵後の高温期(着床の頃)にも来てもらって内膜の厚みや黄体ホルモンの検査などをします。

1-2周期見てどこかに問題がないかどうかをチェックします。異常があればそれぞれについて対策を立てることになります。ある程度めどがついたら、子宮卵管造影検査をします。そしてその周期に妊娠になるのが理想的ですが、妊娠されないことも多いのでそれからはケースバイケースの試行錯誤になります。

今まで不妊治療をされていた場合は、最初から同じことを繰り返すということはありません。必要と思われる治療を直ちに始めるようにしています。

 

それぞれの検査について説明します

生理中に調べるホルモン検査

1;下垂体ホルモン FSHとLH

下垂体から卵巣に向かって「働きなさい」という指令を出すホルモンです。卵巣が普通に働いている場合はどちらも10(mIU/ml)以下ですが、卵巣の機能が低下すると10(mIU/ml)を超えてきます、特にFSHが10を超えると排卵しにくくなります、40歳を超えるとだんだん10を超えるようになります、20を超えるとなかなか排卵しないようです、もちろんすることもありますが、なかなか予測ができないです。50を超えると閉経のような状態になります。

FSHが10以下でLHが高い場合は多のう胞性卵巣のことが多いです。これは別項で説明しますが、なぜか最近はこの多のう胞性卵巣の患者さんが多いですね、昔はこれほど多くなかったような気がします。FSHが高い場合はなかなか治療が難しいですが、LHが単独で高い場合は、つまり多のう胞性卵巣の場合はクロミッドという誘発剤が効果があることが多いです。

3;乳汁分泌ホルモン PRL

妊娠したり授乳したりすると(下垂体から)分泌されるホルモンですが、これが妊娠してなくて分泌されると不妊になりやすいと言われます、排卵障害や着床障害を起こすようです。授乳中は妊娠しにくくなるようになっているのかなと思います。普通は特発性(原因がない)のことが多いですが、まれに下垂体微小腺腫という脳腫瘍から分泌されていることがあります、頭部のMRI検査でわかります。PRLが100(ng/ml)以上あると下垂体腫瘍の可能性が出てくるようです。この腫瘍が大きくなると視神経の視交叉という部分を圧迫して、外側の半盲になることがありますが、そこまで行くのはまれだとは思います。またこのホルモンはドーパミン抑制性の薬で高くなります、これは精神科(もしくは心療内科)で処方されることが多いです。

4;甲状腺ホルモン TSH FT3 FT4

甲状腺に異常があっても不妊になります。機能亢進でも低下でもよくないです。機能低下の場合はTSHが高くなります、TSHは甲状腺刺激ホルモンと言ってFT3やFT4という甲状腺ホルモンを分泌させるホルモンです、したがってTSHが高いということは甲状腺の機能が低下しているということです、この場合はチラージンという甲状腺ホルモンを処方して飲んでもらいます、逆に機能が亢進(高くなっている状態)している場合はTSHが低くなり、バセドウ氏病ともいわれる状態ですが治療が難しいので甲状腺の専門クリニックを紹介しています。

 

排卵のころの検査

1;尿中LH検査 排卵検査薬と言われるものです

先ほどお話しした下垂体ホルモンのLHがちょうど排卵の1日前ごろに下垂体から多量に分泌されます、これをLHサージと言いますが、これが引金になって排卵すると考えられています。このLHが尿に排出されるのでおしっこの検査でLHサージがわかるのです。これがプラスになればそろそろ排卵ということです。ただしこのサージ量も人それぞれのようで、プラスにならないまま排卵する場合もあったり、プラスが出たのに排卵しないということもなくはないので(特に多のう胞性卵巣の人はLHがもとから高いのでプラスが出やすいです)、絶対的に信用できる指標ではありませんが、かなり便利な指標ではあります。

2;頸管粘液検査頚管粘液の絵

排卵のちょっと前ごろに子宮の出口の子宮経管というところの頸管腺から透明な糸を引くような粘液が出てきます。これが頸管粘液です。この中なら精子が勢いよく泳ぎまわることができます、そして子宮の中に入って行って卵管の膨大部というところで受精するのです。したがって排卵のころにこの粘液が十分出ないと精子が子宮の中に入っていけません、これを頸管因子と言って不妊の原因の一つになります。どれ位粘液が出てどうなっていればいいのかというと、0.3ml出ていて、注射器で吸って引っ張ると15㎝くらい伸びて、熱をかけて乾燥させるとシダ状の結晶ができる状態を頸管粘液が熟化していると言いいますが、そうなっていればよいです。自然妊娠のためには非常に重要なファクターと考えています、したがって、まず頸管粘液が出ているのかどうかを見ます、もし出ていないなら何とかして出さなければいけません。

頸管粘液を増やす方法としてはまずはセキソビッドという薬を使うことが多いです。これでだめなら誘発剤の注射(hMGなど)を打ったりします。もしそれでも増えないなら人工授精になりますが、これはまた別のところで説明します。ただセキソビッドは排卵誘発作用が弱くてあまり卵ができません、場合によってはかえってできにくくなることもあります。ですからセキソビッドで全部うまく行くというわけではありません。

3;ヒューナーテスト PCT(Post Coital Test)

排卵のころに頸管粘液中で精子がどれくらいるのか、ちゃんと泳いでいるのかを見る検査です。前日に性交して来てもらう必要があります。400倍の顕微鏡で観察して1視野に5匹以上いればよいのですが、できれば20匹以上いてほしいです、さらに運動をしている精子は70%以上程度いるとよいですね。特に直進運動をしている精子が半分以上いれば非常によいです。それ以下の場合は頸管粘液が良くない可能性があるので、上記と同じようにセキソビッドを使ったり注射の誘発剤を使ったりします。それらの治療でうまく行かない場合は人工授精も選択肢になります。

 

排卵後の着床のころの検査

1;子宮内膜の厚さ 子宮内膜の絵

内膜は排卵のころに10㎜程度になるのが理想ですが、最終的には着床のころに10㎜になっていればよいと思います。問題はこれが薄い場合です、なかなか厚くなりません、セキソビッドはわりと内膜にも良いのですがそれでも十分には厚くならないことが多いです、hMGという注射が良いと言われますがこれもなかなか厚くはならないです。一番治療に苦しむタイプですが、頑張っているとふとしたとき厚くなって妊娠されることがあります、気を抜かずに内膜をチェックしていくのが重要と思います。

どうしても厚くならないときは体外受精をして受精した胚を全部凍結して、そのあとの人工的な周期で、徹底的にホルモン剤を使って内膜を厚くして胚を移植するという手もあります。人工周期なので厚くならなければ何回でもやり直しはできるので、そういう時は胚凍結は有効かなと思います。

2;エストロゲンとプロゲステロン E2 P

これは卵巣から出るホルモンです。着床のころは基礎体温表で言うと高温相です、黄体期とも言います、この時にプロゲステロンという黄体ホルモンが卵巣から分泌され、エストロゲンも生理中よりだいぶ増えてきます。このときのエストロゲンが100(pg/ml )以上で、プロゲステロンが10(ng/ml)以上あればよいですが、それ以下だと黄体機能不全ということになります。その場合は卵巣からホルモンを十分出させるために排卵誘発を行うことになります。誘発すればこのホルモンは結構出てきますので増やすのは割と簡単です。誘発剤を使えば卵が何個かできます、2個できればホルモン量も2倍近くになるようです、しかし2個できなくてもホルモン量は増えますので必ずしも卵胞が2個できなくても効果はあります、特にセキソビッドでは2個できることはほとんどありません。

3;精液検査

精液検査は一般には高温期や生理中にすることが多いです。ヒューナーテストで異常なければ無理にしなくてもよいですが、異常があれば必ず必要です。正常値に関しては不妊の原因のページの男性因子参照お願いします。

 

一通り検査が終わったら子宮卵管造影検査をします

子宮卵管造影(HSG;hystero-salpingo-graphy)

HSG1HSG2

子宮に奇形がないかとか、卵管がちゃんと通っているかとか、卵管の周囲に癒着がないかなどがわかる検査です。子宮に造影剤を注入してレントゲン写真を撮ります(油性の造影剤が一般的ですが、水性の造影剤を使用する施設もあります。油性の方がはっきり見えますが、まれに造影剤が子宮の血管から血液中に入り込み肺塞栓症を起こすことがありますので安全な水性の造影剤を使用することがあるのです。当院では油性の造影剤をレントゲンの透視下に使用しています。透視しながら行いますので、血液中に漏れるようなときは即座に中止します、検査は中途半端になってしまいますが仕方がありません)。施設によっては不妊の治療の最初に行うところもありますが、少々痛みを伴いますので当院では数ヶ月間の排卵周期確認およびヒューナーテストなどで精子に問題がないことを確認した上で行っています。できるだけ痛くないようにしますが、痛かったらごめんなさい。

ところで、なぜか子宮卵管造影をすると妊娠しやすくなります。理由はよくわかっていませんが油性の造影剤が効果があるとも言われています。でも確かによく妊娠します。ですからHSGをするときは、ある程度条件をそろえてからするようにしています、例えば頸管粘液が良くなければよくなるような治療をしてからとか、精子が少なければ人工授精をする前にとかそういうタイミングで子宮卵管造影検査をするようにしています。レントゲンの被爆があるので、何回もできる検査ではありません、せめて年に1回程度でしょう。

 

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